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2021年1月、バイデン氏が米次期大統領に就任し、米保健福祉省(HHS)と食品医薬品局(FDA)は新たなリーダーシップへの移行を開始する。新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン、治療、疾患を特定する新しい技術、医療及びウイルスの感染減少に注力することが引き続き米次期大統領バイデン氏にとって最優先課題であることは論を待たない。この件は彼の選挙戦における最重点項目であったからだ。本アラートはまた、特に、新しい技術(特に緊急使用許可(EUA)プロセスによるもの)、栄養補助食品、遠隔患者モニタリング/テレヘルス及びワクチンに注目して、医薬品、医療機器、バイオ医薬品及び食品などの広範な分野における今後の変更について説明する。

新型コロナウイルスに対するFDAの取組み(ワクチン)

米次期大統領バイデン氏は、新型コロナウイルスのパンデミックに対処するための措置を講じた。バイデン氏は、医師及び専門家から成る新型コロナウイルス対策チームを発表した。チームの代表は、オバマ政権で公衆衛生局長官を務めたヴィヴェク・マーフィー博士、ブッシュ大統領及びクリントン大統領のもとでFDA長官を務めたディビッド・ケスラー博士、及びエール大学健康公平性研究担当副学部長のマルセラ・ヌニェス・スミス氏の3名である。対策チームの早期目標は、ウイルス及び人種格差に対処するプログラムにおいて州及び地域の保健担当官と協力し、学校及び企業活動を再開する計画を策定することである。

この戦略の鍵となるのは、FDAのEUAに関する権限と、EDAプロセスによって許可された製品が広く利用される前に十分な安全性及び効能を有していることを確認することである。現状では、複数のワクチン、治療、臨床試験及び他の製品が、発売済みであるか又はEUAの審査を受けている。米次期大統領バイデン氏は、引き続きこうしたFDA製品の実用化に至る審査を加速させるために、またワクチンが販売・投与されて新型コロナウイルス感染者が著しく減少するまで、公衆衛生上の緊急事態(PHE)(現時点では2021年1月21日に失効予定)を延長することができる。

ワクチン及び新型コロナウイルスの治療は、米次期大統領バイデン氏の最優先課題である。FDA医薬品評価研究センターの経験豊富なリーダーであるジャネット・ウッドコック博士は、新型コロナウイルスのワクチン及び治療の推進に専心して取り組んでいる。

医薬品

米次期大統領バイデン氏は選挙戦の間、医薬品の価格設定に際してのコストの透明性を(買い手としての)政府及び消費者の両者のために高めることを求めた。こうした取組みは、HHSの他の機関を通じてなされる可能性があるが、一方で、米次期大統領バイデン氏は、「がんムーンショット」計画が予防と治療を含むがんの研究の支援を意図していたとおり、引き続きFDA及び国立衛生研究所(NIH)に対しがんの治療法の発見を奨励することを望む可能性がある。

このほか、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)のOTC規定の実施が最優先される可能性がある。というのは、この法律はOTC製造業者がラベル変更と代替表示を提出し審査を受けることを許可しているからである。OTC市場は消費者にとって重要であり、もはや処方箋を必要としない医薬品のコストを引き下げるため、同法はコストの低下をもたらす可能性があり、米次期大統領バイデン氏の重要なイニシアチブを示している。

臨床試験

米次期大統領バイデン氏は、オバマ政権で副大統領を務めていたとき、臨床試験の報告要件の透明性を強化する公式声明を行った。臨床試験結果の概要の報告を求める要件は目新しいものではない。2007年9月27日、連邦食品医薬品化粧品法が改正され、全ての臨床試験をClinicaltrials.govに登録すること、医薬品/機器の製品が承認又は認可されたか否かにかかわらず試験結果の概要を掲載することを求める変更が行われた。報告要件の目的は、公衆への情報提供を増やし、患者、供給者及び研究者がより多くの情報を得た上で医療に関する決定を行うことができるように治療法のリスクとメリットを伝えることであった。

2017年、臨床試験結果を報告する手段について規定する、オバマ政権が最終的に決定した規則が成立した。結果の概要の報告を怠った治験責任医師は、1日あたり10,000ドルの罰金を課されることとなった。 トランプ政権は、2017年1月18日以降に完了した臨床試験に限って同規則を適用すると解釈した。トランプ政権の解釈は、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所によって取り消されたが、報告要件はいまだに運用されていない。

臨床試験の透明性は、過去の治療薬候補の結果を医薬品の開発者に提供することにより新たな開発を促進する一つの方法として推進されている。しかしながら、臨床試験結果の概要が公に提供された場合、研究者に対し、調査結果を刊行物に掲載する対価が支払われなくなるのではと懸念する向きもある。バイデン政権下では、罰則が効力を有するものとして2007年9月27日以降の全ての臨床試験結果に適用される可能性がある。

医療機器

デジタル・ヘルス

FDAはこの数年間、デジタル・ヘルスを推進する政策に多大な時間を費やしてきた。これにより、デジタルヘルス・テクノロジーと人工知能/機械学習は比類ないスピードで進展した。FDAは、規制審査プロセスにおけるリアルワールドデータの活用、人工知能/機械学習製品に関する当初の枠組みの導入、医療用医薬品関連のソフトウェア、医療用ソフトウェア開発を促進する事前認証プログラム、及び医療機器・放射線保健センター(CDRH)内のデジタル・ヘルス研究センターの設立に関するFDA審査の改革において、規制に関する一連のイニシアチブと創造的なアプローチを提示している。

また、21世紀医療法及び医療機器のDe Novo分類プロセスに従って医療機器の分類からソフトウェア機能を除外する他の規制が検討されている。

バイデン政権は、現行のデジタル・ヘルスに関する政策的枠組みの根幹にある重要な問題を再検討する可能性がある。例えば、民主党議員からは、事前認証制度及び医療製品の承認又は許可の際にリアルワールドデータを受け入れることについて、公衆衛生を損なう可能性があるとして強い懸念が示されている。事前認証及びリアルワールドデータの利用という考えは両方とも、革命的とは言わないまでも、急速に発展する技術に対する規制当局の新しい考え方を反映している。新政権と連邦議会が最新技術に対するアプローチをどのように変更していくか細心の注意を払う価値がある。バイデン政権は、民主党の見解を反映するアプローチを取ることによって、独自のアプローチを生み出す可能性がある。

薬事未承認検査(LDT

オバマ政権下のFDAでは規制上のプロセスが変更された。オバマ政権は、薬事未承認検査(LDT)に関する問題を取り上げた白書を発行したが、トランプ政権は当該白書で説明されていた構想を反映する規則を策定していない。HHSは最近、告知コメントによる規則制定がない場合、FDAはLDTの市販前審査を要求しないことを発表した。LDTの規制については長年論争が行われている。バイデン政権は、LDTを規制する包括的な枠組みを設けることを試みる可能性がある。バイデン政権は、最近のHHS の発表を覆すことを選択する可能性がある。

医療機器ユーザーフィー

また、医療機器産業との間で現在行われている医療機器ユーザーフィー修正(MDUFA)交渉は、議会が医療機器産業のさらなる改革を進める動きに拍車をかける可能性がある。バイデン政権は、デジタル・ヘルス及び診断法を含む新しい技術に適用される法を解釈又は改正する重要な手段として、MDUFAを利用しようとする可能性がある。

食品及び栄養補助食品の規制

バイデン政権では、食品、飲料及び栄養補助食品に対する連邦政府規制が実質的に増加する可能性がある。トランプ政権下ではFDA、環境保護庁(EPA)及び米農務省(USDA)等の連邦政府機関向け資金の多くが他に振り向けられた。その結果、これら連邦政府機関の人員は削減され、オバマ大統領が導入した多くのプログラムは延期されるか又は消滅した。人手が減ったため検査の件数は減少し、機関全体が講じる措置の頻度も減少した。バイデン政権は特にFDA、USDA及びEPAなどの政府機関への資金拠出を増やす可能性がある。

米次期大統領バイデン氏は、過去4年間に実施された多くのトランプの政策を大統領命令によって「取り消す」予定であることが既に報じられている。バイデン政権は、政府機関の指針が与える影響を制限し新しい規則及び規制の実施の速度を落とすことによって政府の監督を減らすトランプ大統領の方針を覆すであろう。事実、バイデン氏は、政策を実施するには分断された米連邦議会と協力しなければならないと思われ、政府機関の行為及び指針を通じて政策を運営する方向に向かうと思われる。オバマ大統領によって開始され、トランプ大統領のもとで凍結されたFDAの指針及び規則案は、「ナチュラル(natural)」の定義を確立し「ヘルシー(healthy)」の再定義のように、次期大統領バイデン氏のもとで復活する可能性がある。大麻及びCBDを含む製品の製造及び販売に関する正式な指針及び規制は、1年以上も保留されている。今後は政府機関の措置及び指針に従うことが予想されるため、2021年にはこの分野で何らかの動きが見られるであろう。

バイデン氏は、米国食品安全強化法を導入したオバマ政権の重要な部分であったため、あらためて食品の安全性が重視される可能性がある。米次期大統領バイデン氏は既に堅固な新型コロナウイルス対策チームの結成に着手していることが示されており、新型コロナウイルスのパンデミックはより早い段階で沈静化する可能性がある。新型コロナウイルスのパンデミックが沈静化すれば、FDA及びUSDAによる食品関係施設の現地検査は増加する可能性がある。

さらに、連邦取引委員会(FTC)は、「ビジネス重視」のスタンスを減らして、食品、飲料及び栄養補助食品産業を含む全ての業種の企業に対し、ますます積極的に広告法を執行する可能性がある。2018年、トランプ大統領によって5名のFTC委員が交代したが、バイデン政権の目的と施政方針を実施する意思のある人材を迎えるために、FTCの議席にいくつかの変更が加えられる可能性がある。

バイオ医薬品

再生医療又は細胞/遺伝子治療分野の新薬治験開始申請(IND)及び生物学的製剤承認申請(BLA)の件数は著しく伸びている。FDAの生物製品評価研究センター(CBER)の所長は、新型コロナウイルス感染症が発生する前は、自身の75%の時間を細胞/遺伝子治療に関する事項に割いていた。バイデン政権下においてFDAは、引き続き再生医療申請の審査を行い、当初から遺伝子治療を重視していたことを受けて、遺伝子治療分野の専門性を積極的に発展させる可能性がある。FDAの最大の課題は、十分なリソースを確保することであろう。新型コロナウイルス発生前ですら、細胞及び遺伝子治療開発の急激な成長は、CBERの職員によるスポンサーとの交流を制限し、多くの会議が書面による対応のみに変更され、外部との交流を制限していた可能性がある。

バイデン政権において、再生医療先端治療(RMAT)指定制度は、細胞/遺伝子治療プログラム強化の一環として専用の資金を獲得する可能性がある。これまでFDAは、RMAT指定の申請を、米国内に有効なINDが存在する場合に限って審査した。FDAは、スポンサーが米国外で科学的に有効な予備的な臨床上の証拠を集めた場合にかかる指定申請を検討することができる。中国及び日本では堅固かつ有効な複数の再生医療集団が存在し、その中で多くの企業が再生医療の開発を進めている。変更された場合、このアプローチは、米国外及び他国で生まれた革新的な技術に対する米国の患者のアクセスを促進する可能性がある。

さらに、医薬品価格を緊急に引き下げる必要性に関する超党派の懸念は、ブランドの医薬品/バイオ医薬品とジェネリック/バイオ後続品との間の競争を促すために、バイデン政権に動機付ける可能性がある。

終わりに

米次期大統領バイデン氏は、強い政府と、同政権の政策を実施する重要なパートナーとして連邦機関にあらためて依存することを重視している。したがって、バイデン政権では、新型コロナウイルスとHHS及びFDAが規制するその他の分野に取り組むため、断固たる対策が行われる可能性がある。