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国境を超える米国訴訟のための文書保全対応:米国外企業の留意点

米国のディスカバリー制度は他に類を見ないほど広範です。連邦証拠規則(Federal Rules of Evidence)や各州法により、当事者は係属中または合理的に予想される訴訟において関連性ある証拠であることを知り、または知るべきであった場合、文書やデータを保存する法的義務を負います[1]。米国外に本社を置く企業も、同様にこれらの規則による義務を負います[2]。その結果、企業は自らの義務を認識し、規則違反による制裁リスクを軽減する措置を講じることを検討すべきです[3]

文書保全規程と運用

 米国における広範な証拠開示に対応するための基盤となるのは、一貫して運用される社内文書の文書保全規程を有することです。訴訟に関連する証拠を破棄した場合の潜在的な影響を考えると、日常業務として適切な文書保全規程を有することは、重要な意味を持ちます。例えば、金銭的な罰則や、破棄された証拠に訴訟で不利な情報が含まれていると陪審員が推論できるとするなど、裁判所による制裁がその結果のひとつとなり得ます。最近の事例では[4]、会社の電子的に保存された情報(ESI:Electronically Stored Information)の保全規程に関する一貫性のない証言や矛盾する情報は、文書保全に向けた努力の信頼性に懸念を抱かせ、一貫性のある文書化された規程の重要性と、タイムリーで正確な訴訟ホールドの必要性を浮き彫りにしました[5]。 

確固とした文書保全規程は、手続の合理化と訴訟コストの削減に役立ちます。しかし、米国外の企業は、米国の証拠開示の広範で負担の大きい性質を十分に理解していない場合もあります。この理解のギャップが、米国の法的要件に沿う確固とした文書保全規程の必要性を生じさせています。

大陸法の国を含む国際企業は、自国の文書保全基準に従うこともありますが、これが米国で法的に期待されるものに合致しない場合もあります。事業部門の情報システムが分散していると、米国に準拠した包括的な文書保全規程の導入が妨げられる可能性があります。さらに、米国子会社だけで文書保全規程を確立しても十分ではありません。本社は、可能な限り、グローバルにグループ会社全体で一貫したルールを導入すべきです。この一貫性により、外国企業は米国で起こる訴訟や政府からの問合せに対応することができます。

法的通知への対応

平時の文書保全の運用に加え、企業は法的通知[6]への対応に関する社内プロセスの構築も検討すべきです。公的な法的通知を受け取った場合、企業の法務部門は、外部の弁護士に相談するなど、初動の対応を検討します。

  • 訴訟ホールド:訴訟ホールド(Litigation Hold)とは、弁護士が特定の従業員に送付する、特定のカテゴリーの文書やESIを保存するよう通知する社内の書面による指令です。訴訟ホールド通知には、保存しなければならない文書やESIの性質が詳細に記載されています。係属中または合理的に予想される法的手続や要求に関連する文書や情報を保存するための防御可能なプロセスの一環として、企業が訴訟ホールドを速やかに発行することは、標準的(かつ期待される)慣行です。法務チームは、すべての関係従業員や部署を特定し、通知し、これらの通信記録を残さなければなりません。企業はIT部門を巻き込んで、関連するESIを削除またはリサイクルする可能性のある保全規程の運用を一時停止する必要があります。
  • 法的通知の法的要件と義務:企業の法務チームは、法的手続の要請や通知が強制的なものなのか、任意的なものなのかを評価すべきです。これには、発行機関の権限を確認し、適切な署名、日付、翻訳など、要求がすべての法令・規制の要件を満たしているかの確認が含まれます。また、企業が、当局の管轄下にあるかどうか、要請された文書や情報がその法的権限に含まれるかどうかを判断することも重要です。企業はまた、要求に応じることが過度の負担になるか、負担と比例的な理由に基づいて要求に反対する根拠が存在するかを検討する必要があります。
  • 法的通知の守秘義務:企業は、法的通知を確認し、その遵守が契約上の義務や政府機関から課せられる義務など、会社の他の義務に抵触するかどうかを評価すべきです。法的通知の守秘義務が他の開示義務に抵触する場合、企業は、発行機関に対して守秘義務を説明し、その遵守を許可するための書面による権利放棄や承認を求め、情報を開示することや、要求に従わないことによって生じる可能性のある責任についても分析する必要があります。この分析に基づき、会社は利害関係者への開示に関する適切な戦略を決定すべきです。
  • 秘匿特権の維持:法的特権を維持することは、特に米国の案件では最も重要です。この特権は、法的助言の機密性を保護し、調査や訴訟中に行われた会社の決定に対する成果物の保護を図るものです。特に、弁護士と依頼人の間の秘匿特権(attorney-client privilege)は、法的助言の提供を容易にすることを目的として依頼人とのコミュニケーションを保護し、依頼人に提供された弁護士の助言を守ります。これらの機密を保護するために、企業は弁護士が調査を監督し、関連する意思決定に参加し、秘匿特権を維持するプロセスについての法的分析をタイムリーに提供するようにするべきです。米国政府による調査中は、一般的に米国の秘匿特権のルールが米国外でも適用され得ますが(ただし、弁護士が調査を実施し、監視することを条件とします)、評価の全段階に米国法弁護士や法務チームを関与させることで、これらの保護をより確実にすることができます。企業は、弁護士の指示や関与なしに企業の文書や関係者の供述を編集・評価するような内部調査をすることは避けるべきです。
  • その他の考慮事項:法的通知が個人情報を要求している場合、企業はその要求に従うことが、データ・プライバシー法上の個人のプライバシー権を侵害するかどうかを確認する必要があります。さらに、法的通知に不合理・不当な点、国内法や外国法との抵触、または第三者のプライバシー侵害の要素がある場合は、所定の方法で法的通知に対する異議申立てを検討することが賢明です。

Special thanks to Summer Associate Aika Dietz˘ for her valuable contributions to this GT Advisory.

˘ Not admitted to the practice of law.


[1] Gerlich v. U.S. Dep't of Justice, 711 F.3d 161, 170-71 (D.C. C. 2013).

[2] しかし、裁判所は、米国で予想される訴訟に特に関連する証拠を保全すべき義務の開始時期を決定することができる

[3]Blood Pressure Drug Manufacturer Faces Sanctions Over Discovery,” Bloomberg Law, May 13, 2024.

[4] MedImpact Healthcare Sys., Inc. v. IQVIA Inc., No. 19-CV-1865-GPC-DEB, 2022 WL 1694428 (S.D. Cal. May 26, 2022).

[5] 例えば、ELG Utica Alloys, Inc. v. Niagara Mohawk Power Corp., No. 616CV1523BKSATB, 2023 WL 2655111, at *14 (N.D.N.Y. Mar. 27, 2023) 原告の文書破棄には重大な過失があり、破棄された証拠は被告の防御に関連していたため、制裁が正当化されると判断した事例)

[6] 本記事において、「法的通知」とは、一般的に以下のような公的な法的文書を指す。

1) 法的手続またはそのおそれに関する通知

2) 召喚状などによる文書、証言、情報の要求

3) 公的機関の調査または規制手続に関する公的な要請